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小田康平

/ 叢

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  • HIROSHIMA

植物がのびのびと育つ空間は、人にもやさしい

“いい顔してる植物”をコンセプトに植物の個性や美しさを伝える植物屋、叢(くさむら)。今回は代表の小田康平さんにKIRO 広島のラウンジ「THE POOLSIDE」を中心に手がけた館内植栽について伺いました。植物の生命力を信じ、人と植物の関係を丁寧に育てる姿勢は、ホテルの空間にもにじみ出ています。

ホテル滞在の記憶を深めてくれる、植物のチカラ

──KIRO 広島の空間は、小田さんの目にどんなふうに映りましたか? 

 THE POOLSIDEを見てテンションが上がりました。もともと屋内プールがあった場所で、ガラスの屋根からたくさんの光が入ります。我々が普段仕事をしているビニールハウスに近い環境で、植物にとって理想的な空間なんです。

──植物に良い環境が整う中で、どんな思いで植物を選んだのですか?

ホテルの植栽なので、日常と非日常を切り分けることを意識しました。宿泊する人が「あ、遠くに来たな」と感じられるような、旅の気分を高めてくれる植物を選んでいます。僕が思うに、日常と非日常が分かれていると、人の中にあるスポンジのような感受性がいったん乾いた状態になるんです。たとえば、海外旅行は時間もお金もかけて飛行機に乗っていきますよね。その行為には度胸が必要だけれど、そのぶんワクワクして自分の中のスポンジが乾いていく気がする。そして旅先の風景を見たときに、乾いたスポンジにぎゅっと景色が染み込んで感動するんです。でも、どこかに日常の気配が混ざってしまうと、そのスポンジがうまく膨らまないような気がします。KIRO 広島は建物も部屋もこだわっているのに、泊まる人が落ち込んでいたら「いいホテルだった」とは感じにくい。そんな時に、空間を受け取る側の気持ちをワンランク上のステージへ引き上げる装置として、植栽はあると思うんです。

──KIRO 広島の植栽の見どころを教えてください。

THE POOLSIDEには、普段目にすることが少ない大きな葉の南国の植物やサボテンのように見える植物で非日常感を出しました。あと、空間のポイントとして叢が面白いと思うユーフォルビア・アガベ・チランジアを入れています。黄色いモンステラは開業当初は普通に手に入りましたが、今は人気が高まって価格が10倍まで高騰しているんですよ。

人にも植物にも、幸せが届くように

──植物を鉢に植えるというのは、その成長に人の手を加えることでもあります。小田さんは、植物に人が関わることにどんな意味や役割があると思いますか?

植物を不自然な場所に置くことが僕の生業の一つだと思う一方で、本当に植物を人の手で移動して植えることがいいことなのか考えるきっかけになった案件がありました。その案件以降は、鉢植えの植物は幸せなのか、人間のエゴなのか考えますが、答えは出ていません。ただ、植物を見て育てることで人が少しでも幸せになってくれたら、それがせめてもの報いだと思っています。

視野を広げれば、建物を建てることも、肉を食べることも、何かが犠牲になっています。人間というのは、自然を壊して命をいただきながら、様々なものを犠牲にしながら、生きているわけです。すでにいろんなものを壊して生きている以上、僕は綺麗ごとを言っちゃダメだと思うんです。

 

──だからこそ、植物を見た人や育てる人には幸せになってほしいのですね。

そうですね。それに、育てる人が植物を愛していないと、植物も不幸になっていくと思うんですね。僕たちはどんな施設でも、植物を育てる人に「水やりは楽しい」と思ってもらえるように、植物が愛されるための努力をします。たとえば「こんな由来で明治時代に日本に入ってきた」「原産地ではこんな動物が食べている」など植物が持つストーリーを伝えるんです。植物の背景を知ることで愛着を持ってほしいし、そのストーリーを「ねえ、知ってる?」と誰かに話してくれたら嬉しいですね。


小田康平さんの広島のお気に入り

植物が伸びやかに育つ『倉橋島』

瀬戸内海の倉橋島で、樹齢100年以上のサボテンをとったことがあります。島の穏やかな気候が合っていたようで、大きく育っていました。改めて広島の気候や風景を見渡すと、贅沢な場所だと感じるんです。僕は、瀬戸内海に点在する島々の風景が心地よくて好きです。

平和大通りの散歩で、植物の生命力を感じる

叢の原点は、がらくたみたいなサボテンがかっこいいという視点です。この視点でまちを歩くと、アスファルトを破って草が生えている姿を発見したりする。人工物の中にあっても、植物は種を残すために成長しようとするんですね。こんなエネルギーが僕はかっこいいと思うし、勉強になります。KIRO 広島からすぐの平和大通りを歩いてみてください。原爆が落ちて「75年間は草木が生えない」と言われましたが、「この植物なら生える」と国内外の精鋭植物たちが寄付されました。今の平和大通りは、カシ・スギ・銀杏・クスノキ・メタセコイアなどが混ざり合い、大きく成長しているんですよ。

子どもの頃から変わらない美味しさ『長崎堂』バターケーキ

KIRO 広島の近くにある『長崎堂』のバターケーキは、小学生の頃に父がよく買ってくれた大好きな味です。開店から数時間で売り切れる人気商品で、カステラやバターケーキにあまり期待していない人にこそ食べてほしい。きっと「うまい!」と驚くと思います。


小田康平 / 叢

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1976年、広島生まれ。世界中を旅する暮らしをしていた20代の頃、旅先で訪れたパリで、フラワーアーティストがセレクトショップの空間演出を手掛ける様子に感動。帰国後、生花と観葉植物による空間デザインに取り組むようになる。数年がたち、画一的な花や植物での表現に限界を感じ始めていた頃、ある世界的アートコレクターと出会い、納品後に傷ついた植物を見て発した彼の一言、「闘う植物は美しい」に衝撃を受ける。以来、植物選びの基準を、整った美しさから、『いい顔』をしているかどうかに変える。独自の視点で植物を捉え、美しさを見出した一点物の植物を扱うことを決心し、2012年、独自の美しさを提案する植物屋「 叢 - Qusamura 」をオープンした。

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