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THE SHARE HOTELS

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大原大次郎

グラフィックデザイナー

  • HIROSHIMA
  • KANAZAWA

手描きのゆらぎが更新する、ラウンジの心地よさ

KIRO 広島 3F のゲストラウンジ「THE POOLSIDE」の壁画を手がけた大原大次郎さんは、描き文字や多くのミュージシャンのアートワークでも知られるグラフィックデザイナー。今回は、空間との調和を大切にしながら描かれた壁画制作のプロセスや、鑑賞者への思いについて話を聞きました。

──大原さんと「THE SHARE HOTELS」は、2016 年開業のHATCHi 金沢のグラフィックデザインをお願いしたことからお付き合いが始まりました。

ホテルのデザインに関わるのが初めてだったので、嬉しかったです。地元作家の作品や金沢の工芸品を館内アートやルームキーなどのアイテムに取り入れると聞いて、地域の人たちと繋がりながらホテルを作っていくコンセプトに共感しました。その土地ならではの作家との関係性や地域の素材の質感を、どうデザインに落とし込むかを考えるのは、以前から取り組んでみたいことでした。

──その後、KIRO 広島でもデザインを手掛けました。きれいな線が印象的なロゴですが、どんなふうに生まれたのでしょう。

インテリアデザインを担当した田中裕之さんとリノベーション前の建物を見学したとき、すでに3 階の「THE POOLSIDE」の空間イメージが明確にあったんです。そこから、プールのタイルの目地に合わせるように文字を組み立てていく感覚でロゴを作っていきました。

ゲストラウンジ「THE POOLSIDE」のロゴは、天井近くにあるアーチ状の構造から着想しました。ぐるりと描いたアーチの中にTHE POOLSIDE という文字を入れて、P の一画目をアーチの一部として扱って“仲良くさせちゃおう”という感じです。アーチ形で遊ぶ感覚で、すいすいとアイデアが出てきましたね。

KIRO 広島やTHE POOLSIDE のロゴの成り立ちを描きながら話す大原さん

──2024 年の一部リニューアルでは、館内のグラフィックアートを描きました。いずれも「P」から始まる作品ですね。

最初にTHE POOLSIDE という場所の名前があって、POOL とPEACE が浮かびました。そこから言葉遊びで発想を広げて、「P 縛り」でつないでみようと思ったんです。ホテルの方と一緒に、P から始まる広島にゆかりのある言葉を考える中で、PIGEON、PEOPLE、PLANT という言葉にたどり着きました。


KIRO 広島3 階エレベーターホール《PEACE / PEOPLE / PLANT》

「P」という文字自体に特別な思い入れはないけれど、普段から例えば「PPPPP……と並べたら別のものに見えてこないかな」というような手遊びをしています。頭でこねくり回すというより、文字を“未知のもの”として扱ってみる。そうすると、知っている文字なのに「P ってこんな形だったのか」と感じる瞬間があるんです。

──そこから、どのようにデザインしていくのでしょう。
手遊びから出てきた文字の中からコンセプトに合うものを拾い上げてパソコンに取り込み、視認性などを確かめながら形を整えていきます。KIRO 広島の壁画は、iPad でシミュレーションをしました。どのくらいの大きさと太さの線だと気持ちがいいかを、一度デジタル上でレイアウトしたんです。それを実寸で出力したものを現場で確認しながら、最終的な線の太さに調整していくような流れでした。

──壁画を見た人が気持ちいいかどうか、ですか?
データをカッティングシートに出力すれば、壁画としては完成すると思います。それでも手描きにする意味って、息を止めてすっと一発で生け捕りするように描かれた線の気持ちよさ……「気持ちいい」という言葉では言い切れないけれど、そこにパソコンと人の手の違いがあると思います。手描きの看板をよく見ると、線が揺れていたり、厚みを感じたりします。その揺れが線の表情になって、人間が描いていると伝わってくる。誰かの手を介在していることが、空間にとって印象深いポイントになるといいと思います。


2024 年3 月の壁画制作の様子。協力:廣田碧(看太郎) / 看板屋


天井近くには「PIGEON(鳩)」を表現

“語りすぎない線”から生まれる余白

──描くモチーフについて、工夫した点は?
泳いでいる人の絵ですが、リアルに描かなくていいと考えました。ぱっと見でよく分からないけれど、「泳いでいる人かな?」と思えるギリギリを狙っています。そのほうが飽きがこないし、描き込みすぎると余白がなくなって作家のものになりすぎてしまう。お客さんやスタッフさんが見たときに「今日はちょっと違って見える」と感じるくらいがちょうどいいです。空間が気持ちいいので、壁画が主張しすぎず自然と馴染むものにしたかったんです。


「THE POOLSIDE」グラフィックアート全景

──大原さんの思いをストレートに伝えるアートではないと。
アートかデザインかという線引きを意識せず、広島と僕の相性の良さのようなものが、滲み出るくらいでいいと思いました。KIRO 広島の仕事をきっかけに広島のまちをたくさん歩いて、素敵な人たちに出会って、本当に好きな場所になったんですね。土地を歩いたことのない人がオンラインで作ったのではなくて、広島を好きな場所だと感じている人が描いた線だと、なんとなく感じてもらえたらいいなと思っています。

自分が育った背景や土地が持つ社会的な文脈は、意識しなくても作るものに表れてくると思うので、前面に押し出して語るよりも自然と滲み出る表現でありたい。きっと自分は、そういう距離感でものを作るタイプなんだと思います。


大原大次郎さんの広島のお気に入り

人と人をつなぐ『ニューオダ理容室』

床屋さんの隣にセレクトストア「MIRROR」が併設されていて、理容師で店主の小田敦生さんが選んだ洋服が並んでいます。僕もここで髪を切っていただいて、服も買いました。小田さんが広島の面白い人たちを紹介してくれて、そのつながりをきっかけに、さらに広島の魅力に気づけた場所です。

KIRO 広島の本をセレクトする『READAN DEAT』

個人で営まれている書店で、ギャラリーも併設されています。店主の清政光博さんに声をかけていただいて、店内で作品を展示する機会もありました。KIRO 広島には、READAN DEAT がディレクションした本棚がありますよ。

言葉にできない美味しさ『じ味一歩』

初めて食べた時に衝撃を受けた創作料理店です。広島の農家から仕入れた野菜をメインに、コース料理を出してくれます。どの料理も斬新で、僕の言葉では説明しきれませんが、美味しいんです。リニューアルの際には「一歩」の文字をお願いしたいとご相談を受けて、まずは「一」という字を365 個描いてみたんです。毎日違う「一」になるといいなと思って。いつかロゴとして実現したら嬉しいですね。


大原大次郎

グラフィックデザイナー

タイポグラフィを基軸としたデザインや映像制作に従事するほか、手遊びと手探りのプロセスを通して、線やかたちの新たな造形感覚を探求するワークショップを多数展開する。著書に『HAND BOOK:大原大次郎 Works & Process』(グラフィック社)、『稜線』(ホンマタカシ/between the books)、編著に『作字百景』(グラフィック社)などがある。

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