HATCHI 金沢

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北陸で起きていることのレポート、ローカルで活躍する人々のインタビューを通して、ここにしかない価値を掘り起こし、発信します。

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九谷焼×宿で仕掛ける、“泊まりたくなる場所”の秘密。
石川

今回は、石川県能美市にある九谷焼の窯元で、130年の歴史を持つ「上出長右衛門窯」
6代目・上出惠悟さんにフォーカス。食器や茶道具の商品企画に携わる“窯元のデザイナー”として、またスペイン人デザイナーや多彩なメーカーとコラボレーションして作品を仕掛ける“ディレクター”として、はたまた「のお菓子壺」のように、新しい解釈で工芸を昇華させていく“現代アーティスト”として。いくつもの顔を持ち、ものづくりという名の海を縦横無尽に泳いでいる自由人のようにも見えるのだけれど…。話を伺ううちに、意外にも上出流“ものづくり”の極意に、“場づくり”のヒントがみえてきたということで、今回は上出長右衛門窯がつくる“もの”と、HATCHiが手掛ける“場”の共通点について取材してきました。
(ライター:喜多舞衣)

今欲しいのは、“出会うべくして出会える”場所。

磁器の成形から絵付けまで行い、九谷焼では数少ない“一貫生産体制”としての拠点を持つ「上出長右衛門窯」。工房には、作品を手に取ってみることができるショーケースを併設しているものの、上出さんはギャラリーでの個展や美術館での作品参加、はたまた百貨店での展示販売など、作品とともに様々な場所に出向き、各地で宿泊する機会が多いといいます。だからこそ、そんな上出さんは、ずっと心に秘めてきた思いがあるようです。

“ごはんとお風呂を楽しむ”という旅館・民宿スタイルや、“快適に、機能的に自分の時間を過ごす”というホテルスタイル。この2つに加えて、その両方を兼ね備えながら“人との交流を楽しむ”というのが、今回計画されている、シェア型複合ホテルの特徴のひとつですね
上出:宿泊者同士の主体的なコミュニケーションが生まれるし、情報交換もできる。そして海外の方とも会話をするきっかけができるというのは、シェア型複合ホテルならではの魅力ですよね。
ただ僕の視点から言うと、実は僕たちみたいに伝統工芸に従事する者や職人同士が泊まれる場所なんかがあればいいなってずっと思っていて。職人とか、ものづくりをしている作家さんたちが泊まれるような場所があると、それこそ他業種、同業種の他産地の方たちと話せるでしょ?そんな機会ってあんまりないけど、でも本当はそれこそすごく重要で、あって然るべきものだよなと。そこから新しいものが生まれる可能性って、すごく大きいと思いますね。
あらかじめお膳立てされたパーティーみたいな場所ではなくて、自然な形で出会うべくして出会える場所ということですね。
上出:そうそう。しかも寅さんが泊まってるような場所で、的屋のおっちゃんが「おぉ、今日どうだった?」みたいなことを聞いてくれるような(笑)。まぁ、それはちょっと言い過ぎかもしれないですけど、でも職人同士が見栄を張らなくていい、なんでもぶっちゃけられるような、そんなあったかい空間があるといいなって思います。あ、そうだ、うち元々もやってたんですよ。
宿、ですか?
上出:そうです、まさに宿。九谷焼業は明治12年に創業したんですが、それ以前は旅籠を営んでいました。ちょうどこの近くに流れている手取川に橋が架かっていなかった時代なので、人が滞留するから旅籠が必要になる、と。それで旅人たちが寄り合って泊まれる場所をやっていたらしいんです。でも、インフラが整理されて橋ができてしまうと旅籠がどんどん暇になっていく一方で、逆に明治10 年代は九谷焼の生産高がピークになり、まち自体が九谷焼で盛り上がってきた、と。それで、旅籠から徐々に仕事を変えていったようです。だから、初代長右衛門は、“宿”と“九谷焼”の併業ですね。
旅籠と九谷焼の二刀流とは、なかなかユニークな歴史ですね。
上出:だから、実は家系的に“人をもてなす”ということに興味があったのかもしれません。
九谷焼も元々はお殿様の食器ですし、もてなしの器としては究極なところがあるんです。
その背景もあって、うちは創業からずっと“日常使いの器”よりも“割烹食器”をつくることが本業なんです。

制限の中にひそむ余白を、自由にアレンジする。

衣食住、全ての要素を備えるホテルという場所は、まさに人が暮らすということそのもの。だからこそ、その全部を最大限に使えば、文化や歴史、産業に至るまで幅広いテーマを表現することができる。だとすれば、昔旅籠をやっていた「上出長右衛門窯」と、これからホテルをつくる HATCHi による運命的なコラボレーションは、既存の“伝統工芸”や“宿泊場所”という概念を覆していく、新たなチャレンジになるかもしれません。

上出:僕、大学を一年間休学して帰ってくるまで、実は自分の家の作品を“客観的に見る”っていう機会がなかったんです。小さい頃から周りにあるので家族みたいな存在で、「なんでこんな柄なんだろう?」って改めて疑問に思うことはほとんどなかった。でも、改めて見てみると「なんだか面白いな」と徐々に感じるようになって、友達が遊びに来たときに試しに聞いてみたんです。そしたら「すごく素敵だね」って反応が返ってきて。
そのときに改めて気付いた のは「そうか、これは知られてないだけなんだ」って思ったんです。九谷焼は聞いた事あっても、長右衛門窯なんてほとんどの人は知らなかった。それまでうち は、料理屋さんか地元の問屋さんを通じて百貨店の食器売り場に卸すくらいで、それ以外の人たちには全くアプローチできてなかったんです。だから、最初は新 しいもの作らなきゃって思ってたんですけど…、いや待てよ。これだけのものがあるんだから、まずは知ってもらおう。ただ見せ方をちょっと変えよう、と。
前 提として“古いもの”として器を見ちゃうと、その絵柄自体の斬新さをあんまり感じられなくなる。それってつまりフィルターがかかってしまってる状態なんで すね。だから僕は、それを取ってあげて、器がつくられたその時代の新しさみたいなものを、見る人たちが自分で感じられるようにする。そういうきっかけを与 える役割だと思ってるんです。
その代表作でもある「笛吹」シリーズは、笛じゃなくていろんな楽器を演奏してますし、骸骨もいますし、ラジカセも担いでますし。まさに、フィルターを取りはらった作品ですね。
上出:うちは作家じゃなくてメーカーなので、祖父も父も、「九谷とは、かくあるべしというような精神論については逆に寂しいくらいに何も言わなかったですし、それが売れるなら文句は言われなかった。ただ、僕はこの「笛吹」の元の姿が大好きなんです。だからこそ、ちょっとやりすぎてる気がしてて、正直もうそろそろいいだろう…と。
「窯の大切なデザインをこんな風にして!」って、誰も怒らないからこそ自主規制ですね(笑)。
根底には、元々の器自体に対するリスペクトがあって、
その上で、ものの見方を変えてくれる“通訳”のような立ち位置ですね。

上出:元々あるコンセプトをあまり変えないで、今の時代にわかりやすく伝える。なるべく手数を入れないで、ほんのちょっとのさじ加減で新しく魅せるっていうのが、僕が目指すところです。それが実は面白い波及効果を生んでいて、例えば僕の個展の時に、昔からつくられている湯呑を自分の作品を混ぜて置いておいたりするんですけど。そしたら、「これも上出さんがデザインされたんですよね?」なんて言われたりして(笑)、僕が手を入れてないものまで、新しく見えちゃうのが面白いんです。

“伝統と革新”という言葉をよく聞きますけど、なんでも刷新することが革新ではなくて、自身と周りを最大限に引き立たせ合うことで、元々持っていた良さを再発見しあう。そうやって、人の意識を変えていくことこそが、革新のためのエッセンスのような気がします。

会話が生まれるシチュエーションを、つくるということ。

そういう意味で、上出さんはHATCHi というホテルの良さを引き立たせ、集う人や泊まる人たちの意識を変えていくエッセンスを取り入れた“北陸発の仕掛け”を考えているとのこと。それはまさに、上出長右衛門の“もの”とHATCHiの“場”があるからこそ成り立つ、ひとつの実験とも言えそうです。

上出:僕にとって、ホテルに携わる仕事というのは初めてのことで、どんなことができるだろうか…と考えているんですが、この環境にあるホテルだからこそできることを、僕の立場で挑戦し たいと思っています。照明やプランター関係を製作予定なのですが、それ以外にも何か楽しいことをと仰って頂いてるので、皆さんが金沢でわくわくして街に飛び出していけるような仕掛けが出来ればいいなと考えています。
必然的に誰かに話しかける仕掛けがあれば、まさに人の意識を変えることにもつながりますよね。
上出:宿泊者の中でコミュニケーションが自然に生まれるのはもちろんですが、故郷に帰った宿泊者が「金沢に行ったら HATCHi に泊まってみるといいよ、面白いから!」って友達に話をしたくなるようなホテルになったら素敵だなって。そうやって、ホテルの中でも外でも、本当にコミュニケーションが成立できるような場所がつくれたら、それは僕にとって面白いチャレンジだと思いますね。

“非日常と日常の転換地”という HATCHi のコンセプトに、上出さんが考える“ものづくり”のエッセンスが加わることで、今まで見たことのないような新しい場所が生まれるとしたら…。それは、どれだけネットで調べても、SNSでシェアされていても、自分の身で体験する“感動”に勝るものはないはずです。ホテルの中、近隣地域、そして北陸エリアへと、分断されることなくゆるやかにつながっている場所、HATCHi。 遊び心に溢れたこのホテルから、感動が連鎖することでいくつもの物語が生まれていく、そんな気がしてなりません。

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